「芭蕉翁絵詞伝」(義仲寺所蔵)


どころに送ること


々になむなりぬ

一年




共に愛して

芽をかき根をわかちて

ところ

るばかりなり

人呼びて草庵の名とす

旧友
・門



その葉茂り重なりて庭を狭め

萱が軒端も隠



風土芭蕉の心にやかなひけむ

数株の茎を備

年にや

住みかをこの境に移す時

芭蕉一本を植

地に立たず

水清からざれば花咲かず

いづれの

紅白の是非にありて

世塵にけがさる

荷葉は平

 菊は東雛に栄え

竹は北窓の君となる

牡丹は

 


芭蕉を移す詞



風雨に破れやすきを愛するのみ



芭蕉
しなり

予その二つをとらず

ただその陰に遊び
筆を走らしめ

張横渠は新葉を見て修学の力とせ
木にたぐへて

その性たふとし

僧懐素はこれに
茎太けれども

斧にあたらず

かの山中不材の類
悲しむ

たまたま花咲けども

はなやかならず

ば吹き折れて鳳鳥尾を痛ましめ

青扇破れて風を
まづ芭蕉を移す

その葉七尺あまり

あるいは半
雲をいとひ雨を苦しむ

名月のよそほひにとて

月を見るたよりよろしければ

初月の夕べより

うて斜めなり

淅江の潮

三股の淀にたたへて



水楼となす
地は富士に対して

柴門景を追
らかに

葭垣厚くしわたして

南に向ひ池に臨み


杉の柱いと清げに削りなし

竹の枝折戸やす


旧き庵もやや近う

三間の茅屋つきづきし
りも昔に変らず

なほ

このあたり得立ち去ら
花橘のにほひもさすがに遠からざれば


々の契
して

再び芭蕉に涙をそそぐ

今年五月の半ば

とかたならぬ侘しさも

つひに五年の春秋を過ぐ
寝の胸にたたまり


々の別れ

芭蕉の名残




松はひとりになりぬべきにや



遠き旅
へす頼み置きて

はかなき筆のすさびにも書き残

々に

霜のおほひ

風のかこひなど

かへすが
れば

かれは籬の隣に地を替へて
あたり近き
ちのく行脚思ひ立ちて

芭蕉庵すでに破れむとす

芭 蕉 を 移 す 詞
現代語訳:LAP Edc. SOFT
菊は東の垣で栄え、竹は北の窓で「此の君」となる。牡丹は、紅色と白色のどちらがよいか論じられるなど、俗人にけがされている。はすは平地にはそだたず、水が清らかでなければ花は咲かない。いずれの年であったか、すみかをこの境、深川に移したとき、芭蕉を1株植えた。ここの風土が芭蕉の生育に適したのだろうか、1株が数株に増え、葉が茂って庭を狭め、萱(かや)の軒先も隠してしまいそうである。人が芭蕉庵と呼ぶので、これを草庵の名にした。旧友や門人は、ともに芭蕉を愛し、芽をかいたり根を分けて、あちらこちらに送ることが毎年のこととなった。ある年、みちのくに行脚することを思い立ち、芭蕉庵はもはやうち捨てることになったので、芭蕉の株を垣根の外に植え替えて、庵の近くに住む人に、霜除けや風除けなど、くれぐれも頼みおいて、とりとめもなく心の赴くままにつづった中にもこのことを書き残し、西行がそのむかし「松はひとりになりぬべきにや」といって残される松を哀れんだと同じように、遠くに旅をしながらも芭蕉への気がかりが積もって、人々との別れ、芭蕉への名残、ひとかたならぬ侘しさも、ついには5年の歳月を過ぎて、再び元気に育っている芭蕉に会って涙を流すのである。元禄5年の5月半ば、古歌に詠われた、人を懐かしむ「花橘」は以前と同じように近くから香っているが、これと同じように人々との通じ合いも昔と変わってはいない。やはり、この近辺を立ち去ることができず、旧庵からやや近いところの、三間の草庵としてはふさわしいものである。杉の柱がたいへん美しく削られ、竹づくりの枝折戸は風情があって心地よく、よしでつくられた垣根は厚く築かれ、南に向かって池に臨んで、水楼のようである。敷地は富士に面していて、芝の門はその景色をさえぎらないように斜めに建てられている。淅江のような潮は三つまたの淀に満々と湛え、月を見るにふさわしいので、三日月の夕べから、雲や雨が観月の邪魔をしないかと不安である。名月の装いのために、旧庵にあった芭蕉をまずこちらに移した。その葉は七尺余り、あるいは葉が風に吹かれて半ばで折れて鳳凰の尾が痛ましい姿になったようであり、また青扇が破れたようであり、なんとも風が憎らしい。たまたま花は咲くが、華やかではない。茎は太いが斧で切られることはない。荘子の「此ノ木不材ヲ以テ其ノ天年ヲ終ルヲ得タリ」にあるように、山中にあって使用されない木の類は、天年を全うすることになるので尊いものだ。僧懐素は芭蕉の葉に文字を書き、張横渠は芭蕉の勢いのある新しい葉から修学の姿勢を学んだ。私はそのようなことは行わず、ただ、芭蕉の葉のかげで遊び、風雨に破れやすいのを愛するのみである。

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