| 松尾芭蕉の旅 おくのほそ道 | ||||
| 俳聖 松尾芭蕉・生涯データベース |
| おくのほそ道 十五 | ||||
| 信夫の里の章段 |
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| あくれば、しのぶもぢ摺の石を尋て、忍ぶのさとに行。 | 明けて次の日、しのぶもじ摺りの石を尋ねて、信夫の里に行った。 | |||||
| 遥山陰の小里に石半土に埋てあり。 | はるか離れた山陰の小さな村里に、その石は半分ほど土に埋もれていた。 | |||||
| 里の童べの来りて教ける。 | 里の子どもが来て、いきさつを教えてくれた。 | |||||
| 昔は此山の上に侍しを、往来の人の麦草をあらして、此石を試侍をにくみて、此谷につき落せば、石の面下ざまにふしたりと云。さもあるべき事にや。 | 「その石は、むかし山の上にあったのですが、ここを通る人たちが麦の葉っぱを取り荒らしてその石にこすっていくのを嫌い、村の人がこの谷に突き落としたものだから、こうして石の表にあたるところが伏したようになったのです」という。そういうこともあるのだろうか。 | |||||
| _早苗とる手もとや昔しのぶ摺 | 早苗をとっている早乙女たちの手元を見ていると、むかし、しのぶ摺りをした手つきもおなじようだったのかと偲ばれることだ。 | |||||
| 【参考資料】 文献に見る本章と同案の句文 | ||||||
| 忍ぶの郡しのぶの里とかや、文字摺の名残とて、方二間ばかりなる石あり。此石は、昔女のおもひに石になりて、其面に文字ありとかや。山藍、摺乱るゝゆゑに、恋に寄せて多く詠めり。今は谷合に埋れて、石の面は下ざまになりたれば、させる風情も見えずはべれども、さすがに昔おぼへてなつかしければ、 早苗とる手もとや昔忍摺 芭蕉 (元禄九年刊・史邦編「芭蕉庵小文庫」) |
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| もぢ摺石は、福島の駅東一里ばかりに山口と云処に有。里人のいひ伝え侍るは、往来の人の此石試むと、麦草を荒らし侍るを憎みて、此谷に落し入(いれ)侍るよし。今は茅(ちがや)の中に埋れて、石の面は下ざまになり侍るとかや。誠風流の昔に劣り侍るぞ、いと本意なく覚侍る。 早苗つかむ手もとや昔しのぶ摺 はせを (元禄十一年序・露泉編「網代笠」) |
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| 福島にやどりて、忍の里に石を尋ぬ。里の童の教へていへるハ、昔此山の上に有しを、往来の人麦草を荒らして此石を試るゆゑ、醜しとて、此谷に落すとなり。 早苗とる手もとや昔しのぶ摺 芭蕉 石の面、下様に伏したり。さもあるべき事にや。 (元禄十四年跋・大町編「涼石」) |
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[語 釈] |
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「あくれば」は、福島城下に泊まった翌日で五月二日。 「忍ぶのさと(信夫の里)」は、左衛門督通光の歌「かぎりあれば信夫の山のふもとにも落葉がうへの露ぞ色づく」(「新古今和歌集」)などの歌で知られる歌枕。 「しのぶもぢ摺の石(信夫文知摺石)[資料]」は、河原左大臣・中納言源融と里の女・虎女との悲恋の伝説を残す巨石で、文知摺観音の境内にある。源融の次の歌で高名。ただし、「伊勢物語」や「百人一首」では、下の句が「乱れ初めにし我ならなくに」と改められている。 みちのくのしのぶもぢずり誰故に 乱れむと思ふ我ならなくに 源融 (「古今和歌集」) |
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本文にある事情で土に埋もれたかは不明だが、当時「石半土に埋て」あった巨石は、明治になると、地上からわずかに頭を出すまでに埋まった。これを見かねた信夫郡長の柴山景綱は、一帯の土を掘り下げて巨石全体を顕(あらわ)にした。その結果、寛政六年(1794)京都の俳人丈左房が巨石の脇に建立した「早苗とる」の句碑が、円柱形をした高台の上に取り残された[資料]。 |
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「此石を試(こころみ)侍(はべる)」とは、源融と虎女の伝説[資料]にある話、すなわち、文知摺石を麦草で磨いたところ、恋しい人の面影が石の表面に映ったという話の真偽を確かめようとする「往来の人」の所作。 「にくみて」は、「不愉快に思って、嫌って」の意。 |
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「さも)」は「そういうことも」。「さ(然)」は副詞、「も」は強意の系助詞。 「あるべき事にや」は「あるのだろうか」の意。「にや」の「に」は断定の助動詞「なり」の活用形で、「や」は疑問の係助詞。 |
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本句は、仙台の「画工加右衛門」に書き贈った句(下記)や、上の「参考資料」に示す句「早苗つかむ手もとや昔しのぶ摺」の決定稿。 しのぶの郡しのぶ摺の石は、茅(ちがや。イネ科の多年草)の下に埋れ果て、いまは其わざもなかりければ、風流のむかしにおとろふる事ほいなくて、(加衞門加之ニ遣ス) 五月乙女にしかた望んしのぶ摺 翁 (「俳諧書留」) |
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「おくのほそ道」のテキストについて
本テキストは、俳聖 松尾芭蕉・生涯データベース
および、FLASHムービー「 おくのほそ道を行く」の副読本
としてLAP Edc. SOFTが制作したものです。
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