| 松尾芭蕉の旅 おくのほそ道 | ||||
| 俳聖 松尾芭蕉・生涯データベース |
| おくのほそ道 三 | ||||
| 草加の章段 |
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| ことし元禄二とせにや、奥羽長途の行脚只かりそめに思ひたちて、 | ことし、元禄二年にあたるのだろうか、奥羽への長旅をただなんとなく思い立ち、 | |||||
| 呉天に白髪の恨を重ぬといへ共、耳にふれていまだめに見ぬさかひ、 | 遠い辺境の空のもとで辛苦のために白髪になってしまうようなことが度重なろうとも、話に聞く未見の土地を訪ね、 | |||||
| 若生て帰らばと、定なき頼の末をかけ、其日漸早加と云宿にたどり着にけり。 | もし生きて帰ることができればと、かすかな望みをかけて歩を進め、その日、ようやく早加(草加)という宿にたどり着いたのだった。 | |||||
| 痩骨の肩にかゝれる物、先くるしむ。 | やせ細って骨ばる肩にかかる荷でまずは苦しむこととなった。 | |||||
| 只身すがらにと出立侍を、帋子一衣は夜の防ぎ、ゆかた・雨具・墨筆のたぐひ、 | ただ身一つで旅立とうとしたのだが、夜の寒さを防ぐ紙子一着、ゆかた、雨具、墨筆のたぐいは欠かすことができず、 | |||||
| あるはさりがたき餞などしたるは、さすがに打捨がたくて、路次の煩となれるこそわりなけれ。 | あるいは断れずに受け取った餞別もやはり捨てることができず、道すがらの苦労となったのは仕方のないことである。 | |||||
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[語 釈] |
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「元禄二とせにや」の受け取り方は、「ことし」を主語と捉えての述部、または「ことし、奥羽長途の行脚只かりそめに思ひたちて」の挿入句とみる二通りの方法がある。 ここでは、改元されたばかりの「元禄」に軽く触れる書き方とみて後者をとり、「ことし、(たしか)元禄二年にあたるのだろうか、奥羽への長旅を・・・」と訳出。 「元禄」は、1688年の九月三十日、「貞享」から改まった東山天皇朝の年号。みちのくへの旅立ちは、それから約半年後。「寛文」は1661年4月〜1673年9月、「延宝」は1673年9月〜1681年9月と比較的長く続いたが、これに続く「天和」は1681年9月〜1684年2月の約二年半、「貞享」は1684年2月〜1688年9月)は約四年半とめまぐるしく改号されていることから、「元禄二とせにや」の「にや」には、まだ「元禄」に馴染みが浅い、といったニュアンスが汲み取られる。 「にや」は、断定の助動詞「なり」の連用形「に」に、疑問の系助詞「や」がついたもので「〜だろうか」の意。 |
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ただ、なんとなく思い立って。「かりそめ(仮初)」は、たまたま、ふと。 |
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「呉天」は「呉国の空」で、「(都から)遠い異郷の空」のたとえ。「呉天」を詠み込んだ芭蕉の句に、天和二年の「夜着ハ重し呉天に雪を見るあらん」(「虚栗」)がある。 「白髪の恨を重ぬといへ共」は、「辛苦のために白髪になってしまうような愁いを重ねても」ほどの意。中国の詩人玉屑(ぎょくせつ)の詩の一節に「笠重呉天雪 鞋香楚地花」(笠ハ重シ呉天ノ雪 鞋ハ香シ楚地ノ花)があり、世阿弥作の謡曲「竹の雪」に「いつを呉山にあらねども、笠の雪の重さよ老の白髪となりやせん」がある。 |
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まだ見たことのない土地を見て。「さかい(境)」は、地域、土地。 |
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「定なき」は「当てにならない」。「頼の末をかけ」は、「わずかな望みを行く末の頼りとして」ほどの意。 |
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この記述より、第一夜の宿泊地が草加とも受け取れるが、曽良の「随行日記」に「廿七日夜 カスカベニ泊ル。江戸ヨリ九里余」とある。 早加(草加)宿[資料]は、寛永七年(1630)、千住宿と越ヶ谷宿との間の宿として設置され、日光街道二番目の宿駅となる。 |
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「帋子」は、表面を柿渋で加工した紙製、防寒用の衣服。「笈の小文」に「紙子・綿子などいふもの、帽子・下沓(したうず。足袋)やうのもの」とあり、冬期は、更なる防寒のため「綿子(わたこ。真綿で作った衣服)」も携帯した。芭蕉の旅姿については[資料]を参照。 |
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本テキストは、俳聖 松尾芭蕉・生涯データベース
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