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| 1 旅 立 ち | 那 須 野 が 原 |
田一枚植て立去る柳かな |
こそ立より侍つれ |
給ふを いづくのほどにやと思ひしを 今日此柳のかげに |
此所の郡守戸部某の此柳みせばやなど 折 ゝにの給ひ聞え |
又 清水ながる ゝの柳は蘆野の里にありて田の畔に残る |
ず 蜂蝶のたぐひ真砂の色の見えぬほどかさなり死す |
殺生石は温泉の出る山陰にあり 石の毒気いまだほろび |
野を横に馬牽むけよほと ゝぎす |
のこ 短冊得させよと乞 やさしき事を望侍るものかなと |
是より殺生石に行 館代より馬にて送らる 此口付のお |
と とりあへぬ一句を柱に残侍し |
木啄も庵はやぶらず夏木立 |
法雲法師の石室をみるがごとし |
ぼれば 石上の小庵岩窟にむすびかけたり 妙禅師の死関 |
入 さて かの跡はいづくのほどにやと 後の山によぢの |
て 卯月の天今猶寒し 十景尽る所 橋をわたつて山門に |
はおくあるけしきにて 谷道遥に 松杉黒く 苔した ゞり |
き人おほく道のほど打さはぎて おぼえず彼梺に到る 山 |
みんと雲岸寺に杖を曳ば 人 々す ゝんで共にいざなひ 若 |
と 松の炭して岩に書付侍りと いつぞや聞え給ふ 其跡 |
むすぶもくやし雨なかりせば |
竪横の五尺にたらぬ草の庵 |
当国雲岸寺のおくに佛頂和尚山居跡あり |
夏山に足駄を拝む首途哉 |
まねかれて行者堂を拝す |
えらる 暮れば桃翠宅に帰る 修験光明寺と云有 そこに |
ん とちかひしも此神社にて侍と聞ば 感應殊しきりに覚 |
宮に詣 与一扇の的を射し時 別しては我国氏神正八ま |
那須の篠原をわけて玉藻の前の古墳をとふ それより八幡 |
ふるま ゝ に 日とひ郊外に逍遙して 犬追物の跡を一見し |
ぶらひ 自の家にも伴ひて 親属の方にもまねかれ 日を |
じの悦び 日夜語つ ゞ けて 其弟桃翠など云が 朝夕勤と |
黒羽の館代浄坊寺何がしの方に音信る 思ひがけぬある |
頓て人里に至れば あたひを鞍つぼに結付て 馬を返しぬ |
かさねとは八重撫子の名成べし 曽良 |
しかりければ |
しる 独は小姫にて 名をかさねと云 聞なれぬ名のやさ |
へ と かし侍ぬ ちいさき者ふたり 馬の跡したひては |
えん あやしう侍れば 此馬のと ゞ まる所にて馬を返し給 |
ども此野は縦横にわかれて うゐうゐ敷旅人の道ふみたが |
どもさすがに情しらぬには非ず いか ゞすべきや され |
に野飼の馬あり 草刈おのこになげきよれば 野夫といへ |
暮る 農夫の家に一夜をかりて 明れば又野中を行 そこ |
て 直道をゆかんとす 遥に一村を見かけて行に 雨降日 |
那須の黒ばねと云所に知人あれば 是より野越にか ゝ り |
暫時は瀧に籠るや夏の初 |
ば うらみの瀧と申伝え侍る也 |
岩の碧潭に落たり 岩窟に身をひそめ入て瀧の裏よりみれ |
廿余丁山を登つて瀧有 岩洞の頂より飛流して百尺 千 |
仍て黒髪山の句有 衣更 の二字力ありてきこゆ |
旅立暁髪を剃て墨染にさまをかえ 惣五を改て宗悟とす |
潟の眺共にせん事を悦び 且は羈旅の難をいたはらんと |
をならべて 予が薪水の労をたすく このたび松しま ・ 象 |
曽良は河合氏にして 惣五郎といへり 芭蕉の下葉に軒 |
剃捨て黒髪山に衣更 曽良 |
黒髪山は霞か ゝ りて 雪いまだ白し |
あらたうと青葉若葉の日の光 |
民安堵の栖穏なり 猶憚多くて筆をさし置ぬ |
にや 今此御光一天にか ゝ やきて 恩沢八荒にあふれ 四 |
空海大師開基の時 日光と改給ふ 千歳未来をさとり給ふ |
卯月朔日 御山に詣拝す 往昔此御山を二荒山と書しを |
に近きたぐひ 気禀の清質尤尊ぶべし |
に 唯無智無分別にして 正直偏固の者也 剛毅木訥の仁 |
をたすけ給ふにやと あるじのなす事に心をと ゞ めてみる |
の濁世塵土に示現して か ゝ る桑門の乞食順礼ごときの人 |
ま ゝ 一夜の草の枕も打解て休み給へ と云 いかなる仏 |
を佛五左衛門と云 萬正直を旨とする故に 人かくは申侍 |
卅日 日光山の梺に泊る あるじの云けるやう 我名 |
縁記の旨世に伝ふ事も侍し |
煙を読習し侍もこの謂也 将 このしろといふ魚を禁ず |
中に 火 々出見のみこと生れ給ひしより室の八嶋と申 又 |
姫の神と申て富士一躰也 無戸室に入て焼給ふちかひのみ |
室の八嶋に詣す 同行曽良が曰 此神は木の花さくや |
なれるこそわりなけれ |
たき餞などしたるは さすがに打捨がたくて 路次の煩と |
は夜の防ぎ ゆかた ・ 雨具 ・ 墨筆のたぐひ あるはさりが |
れる物 先くるしむ 只身すがらにと出立侍を 帋子一衣 |
け 其日漸早加と云宿にたどり着にけり 痩骨の肩にか ゝ |
まだめに見ぬさかひ 若生て帰らばと 定なき頼の末をか |
ひたちて 呉天に白髪の恨を重ぬといへ共 耳にふれてい |
ことし元禄二とせにや 奥羽長途の行脚只かりそめに思 |
ならびて 後かげのみゆる迄はと見送なるべし |
是を矢立の初として 行道なをす ゝまず 人 々は途中に 立 |
行春や鳥啼魚の目は泪 |
別の泪をそ ゝぐ |
ば 前途三千里のおもひ胸にふさがりて 幻のちまたに離 |
りつどひて 舟に乗て送る 千じゆと云所にて船をあがれ |
花の梢 又いつかはと心ぼそし むつましきかぎりは宵よ |
光おさまれる物から 不二の嶺幽にみえ て 上野 ・谷中の |
弥生も末の七日 明ぼの ゝ空朧 々 として 月は在明にて |
面八句を庵の柱に懸置 |
草の戸も住替る代ぞひなの家 |
住る方は人に譲り 杉風が別墅に移るに |
かえて 三里に灸すゆるより 松島の月先心にか ゝりて |
ひて 取もの手につかず も ゝ引の破をつ ゞり 笠の緒付 |
そ ゞろ神の物につきて心をくるはせ 道祖神のまねきにあ |
らひ て や ゝ 年も 暮 春立る霞の空に白川の関こえん と |
ず 海浜にさすらへ 去年の秋江上の破屋に蜘の古 巣をは |
づれの年より か 片雲の風にさそはれて 漂泊の思ひやま |
旅にし て旅を栖とす 古人も多く旅に死せるあり 予もい |
に生涯をうか べ 馬の口とらえて老をむかふる物は 日 々 |
月日は百代の過客にして 行かふ年も又旅人也 舟の上 |
1 旅 立 ち | 那 須 野 が 原 |
お く の ほ そ 道 松尾芭蕉著 底 本 / 西村本 |
お く の ほ そ 道 文 学 館 収 蔵 文 書 |
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